地声では高音が苦しくなるのに、裏声にすると急に声が弱くなる。音程を上げる途中で声がひっくり返る。そんなときは、声の強さを足すだけでなく、発声の働きをつなぐという視点が役立ちます。
当教室では、輪状甲状筋と甲状披裂筋の働きをブレンドし、音の高さや強さに合わせて協調させていく練習を「ブレンディング」と呼んでいます。メッサ・ディ・ヴォーチェや、声区の調整を扱うレジストレーションに関わる練習を通して、声のつながりを育てていきます。

当教室が考える「ブレンディング」
ブレンディングで目指すのは、地声と裏声を別々の声のまま使い分けるだけでなく、それぞれに関わる働きを協調させ、歌の中で滑らかにつなげられる状態です。
ここでいう「筋肉をブレンドする」とは、輪状甲状筋と甲状披裂筋の働くバランスを調整するという、当教室での指導上の表現です。二つの筋肉を同じ強さで使うことや、地声と裏声を半分ずつ混ぜることを意味するわけではありません。
音の高さや強さ、求める音色に合わせて、必要な働きのバランスは変わります。その変化を声の途切れや過度な力みにつなげず、表現に生かせるようにすることが目標です。
輪状甲状筋と甲状披裂筋は、どんな働きをする?
輪状甲状筋――声帯を引き伸ばし、張りを調整する
輪状甲状筋は、喉頭の軟骨の位置関係を変えることで、声帯の長さや張りの調整に関わります。高い音を出すときに重要な働きをする筋肉です。
ただし、「裏声だけに使う筋肉」と覚えると、実際の発声を捉えにくくなります。地声・裏声という聞こえ方と、一つの筋肉の働きは、一対一で対応しているわけではありません。

当教室のトレーニングの一例

甲状披裂筋――声帯の厚みや張り、振動の状態を調整する
甲状披裂筋は声帯の内部にあり、声帯を短くする方向に働くほか、厚みや硬さ、振動の状態の調整に関わります。地声らしい充実感を考えるうえでも重要な筋肉です。
こちらも「地声だけに使う筋肉」と単純に分けることはできません。声の状態は、輪状甲状筋との相互作用や、ほかの筋肉、呼気、響きの条件などによって変わります。
当教室のトレーニングの一例

二つの筋肉を、声の中で協調させる
当教室では、一方の働きを強くすることだけを目標にせず、二つの筋肉が協調して働けるように練習を進めます。軽い声から充実した声へ、低い音から高い音へと移る中で、声の状態を調整できるようにしていきます。
筋肉そのものを直接感じ分けようとする必要はありません。レッスンでは、音色や音程の安定、声のつながり、発声時の負担感などを手がかりに、練習の方向を確かめます。これらは筋肉の活動量を直接測定するものではなく、発声を整えるための目安です。
メッサ・ディ・ヴォーチェで、強さの変化をつなぐ
メッサ・ディ・ヴォーチェは、一つの音の高さを保ちながら、声を徐々に大きくし、再び小さくしていく練習です。
小さな声 → 少しずつ大きな声 → 少しずつ小さな声
当教室では、この強弱の変化の中で発声のバランスを調整することを、ブレンディングの練習に生かします。小さい声から大きい声へ移る途中で、音程が上がったり、喉に力が入ったり、音色が急に切り替わったりしないかを確かめます。
小さな声を必ず裏声、大きな声を必ず地声にする練習ではありません。同じ高さの音でも、強さを変えるためには発声全体の調整が必要です。息を押し込むだけで音量を増やすのではなく、声のまとまりを保ちながら変化させていきます。
最初から極端に小さな声や大きな声を目指す必要はありません。自分が扱える強弱の幅から始め、無理なく行き来できる範囲を探します。

レジストレーションの練習で、音域の変化をつなぐ
レジストレーションは、声区の使い方や調整を扱う考え方です。当教室では、音程の上昇・下降や、声区の行き来を通して、輪状甲状筋と甲状披裂筋の働きのバランスを育てる視点を大切にしています。
例えば、低い音から高い音へ移るとき、同じ重さの声を保とうとして苦しくなることがあります。反対に、軽くしようとして急に息っぽい声へ切り替わることもあります。その間で、どのように声を調整するとつながるのかを探していきます。
声の違いを確かめる練習と、その違いをつなぐ練習の両方を行います。どの高さでも全く同じ音色にするのではなく、音域に応じた変化を含みながら、一つのフレーズとして歌えることを目指します。

「強弱」と「音域」の両方からブレンディングを育てる
メッサ・ディ・ヴォーチェでは、音の高さを保ちながら強さを変えます。声区をつなぐ練習では、音の高さや声の状態を変えていきます。当教室では、この二つの方向から発声の調整に取り組みます。
同じ音で強弱を変えられても、旋律になると声が途切れることがあります。音域を滑らかに移動できても、歌詞をつけると急に力むこともあります。そこで、一つの音で得た感覚を短い音型へ、さらに歌のフレーズへとつなげていきます。
ブレンディングは、特定の音を一度出して完成するものではありません。高さ、強さ、母音などの条件が変わっても、必要なバランスを探せるようにする練習です。
練習で大切にしたい三つのポイント
1.地声か裏声かという名前だけで判断しない
声の名前にこだわりすぎず、どこで音色が変わるか、どこで苦しくなるかに耳を向けましょう。変化する場所を知ることが、調整の出発点になります。
2.力を足すより、行き来できるかを確かめる
大きくした声を再び小さくできるか。高くした音から低い音へ戻れるか。一方向に押し進めるだけでなく、往復できることを大切にします。
3.自分に合う音域と音量から始める
練習する高さや強弱の幅は、一人ひとりの声に合わせて設定します。喉の痛みや声のかすれが出る場合は中止し、不調が続くときは耳鼻咽喉科に相談してください。
変化に対応できる、つながりのある歌声へ
当教室のブレンディングは、輪状甲状筋と甲状披裂筋の働きを協調させ、声の高さや強さの変化に対応できるようにしていくという考え方です。
メッサ・ディ・ヴォーチェや声区の調整を通して、軽さと充実感の間を行き来し、自分の声を扱う選択肢を増やしていきます。声を押し上げる、急に切り替えるという感覚から、必要なバランスへ調整する感覚へ。歌いたいフレーズにつながる発声を、一緒に育てていきましょう。

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